(文・撮影=増渕由気子) 6年ぶりの優勝を目指す早大チーム OBの多胡島伸佳(右)と米澤圭の激しいスパーリング 練習を見守る太田拓弥・新監督
早大は今年から新体制になった。長年ヘッドコーチとして現場を切り盛りしてきた太田拓弥コーチが4月に監督に就任した。コーチ就任当初は、すべてのやり方に手取り足取り口を出していた。ここ10年、早大は強豪チームの一角としてすっかり定着。世界選手権などの日本代表にもコンスタントに選手を送り込んでいる。
「今では選手の個性を大事にしている。練習も学生中心。監督として、それを手伝うにとどめている。いろいろな選手がいて面白いでしょう」。スタイルが異なる選手同士が毎日手合せをすることで、選手個々の適応能力の高さには自信がある。
今回のリーグ戦も“太田監督”として幸先の良いスタートを切りたいところだ。
■山梨学院大を破って3位の昨年、充実感はあったが、もやもやも残った
チームをまとめる57kg級の伊藤奨主将は「けが人がなく、ベストメンバーで試合に臨める」と順調さをアピールした。後輩たちに練習面で注文を付けるところはほとんどない。「全日本レベルでの実績がある後輩ばかり。練習もしっかりやっていて頼もしい。僕は私生活の管理をメインにしてチームをまとめています」。
昨年の大会は、6勝1敗で山梨学院大、日体大、早大が三つ巴となり、勝敗の差で山梨学院大が優勝、2位が日体大、早大は3位だった。伊藤主将は「一昨年7位という結果から、昨年は1位~4位グループ決勝戦にも進み、そこで3連覇中の山梨学院大を倒すこともできた。それなりの充実感もあった」と振り返るが、優勝チームに勝っているのに3位という結果に、「落胆というか、もやもやしたものが残った」と、結果自体がジレンマだった。
昨年は全日本選抜選手権・男子フリースタイル70kg級王者の多胡島伸佳を中心としたチームだった。そのうち、5階級のメンバーが今年も健在。多胡島は4月から社会人選手として選手活動を継続し、早大のレスリング場で自身の練習をしつつ、後輩たちに胸を貸してくれる。
65kg級には学生二冠王者の米澤圭、70kg級には全日本選手権2位の伊藤駿、74kg級には昨年大学1年生ながらフリースタイル74kg級で全日本2位の山崎弥十朗がいる。太田監督は「毎日、多胡島と学生のスパーリングを見るのが楽しみ。密度の濃い練習をしている」と、充実した練習内容に手ごたえをつかんでいる。
■6年前の早大復活優勝と同じ状況、再現なるか
昨年のリーグ戦で、伊藤主将は人一倍悔しい思いをしている。勝負の分かれ目となった日体大戦と山梨学院大戦で、いずれも黒星だったからだ。「2試合とも大事なところで負けてしまった。優勝できなかったのは僕のせいだと思っている。悔しい思いを今年はしないように、去年の大会が終わったその日から、このリーグ戦のことを考えて練習してきた」とリベンジに燃えている。
伊藤主将は長崎・島原高校出身。6年前に62年ぶりの早大優勝に導いた当時の主将、松本桂さん(長崎・島原工高卒)はキッズクラブの先輩にあたる。「当時、僕は中学生でした。松本さんがキャプテンで早大を優勝に導いたと聞いて、憧れでした」。
当時の早大は、松本主将のために優勝しようというチームの雰囲気ができ、一丸となっていた。奇しくも、松本先輩と同じく長崎出身で、しばらく優勝から遠ざかっており、4年生より2、3年生に実力者がそろうというメンバー構成-。
「『松本先輩の代と状況が似ている』と言われます。僕が主将としてしっかりやって、あの時と同じように優勝したい」。6年ぶりの悲願達成なるか。